ノルウェー出身のシンガーAURORAの曲、Cure For Me。
MVのダンスがTikTokで「ペンギンダンス」として大バズりし、Skyというアプリゲームにおいても、彼女の楽曲やMVとのコラボレーションが話題になっています。
この曲は、何気なく聴いているだけだと分からないけれど、実は強烈なメッセージが込められています。
目次
歌詞の和訳
これはユニバーサルミュージックが公開してくれたので、公式YouTubeを是非チェックしてみて下さい。
重要な箇所にはこれから触れていきます。
来日公演で彼女が私達に言ったこと
AURORAは、昨年幕張で行われたフェスSuper Sonicに出演していました。
実は彼女は、2020年春にコロナが蔓延しだしてから約1年半の空白の後、1番最初に日本のステージに立った海外アーティストでした。
Cure For Meは当時新しく出たばかりの曲で、この時が3回目の披露だったそう。
「ちょっと緊張してるけど… 多分大丈夫!」
そう言った後、彼女は私達にこんなメッセージをくれました。
「この曲には素敵な意味があるの」
「私は、私達がありのままでいられることは、とても大事だと思ってる。
この世界で生きていると、自分には欠点があるとか変だとか、他の人との違いを気にしてしまって、自分の居場所を見つけたり、希望を持つのがすごく難しいよね。
この曲は、そんな生きづらさを感じてる人達のための曲」
「私はどんなあなたでも愛しているし、あなたはただ、あなた自身でいることを許されるべき。一人の人間として、愛することを許されるべき。
それはとても大切なことだと思う。
だって私は愛を、私達に与えられた権利とその平等を、信じてるから」
曲の背景にある出来事
では、そんなメッセージを持つこの曲は、どのようにして生まれたのでしょうか。
背景には、社会問題にもなっているコンバージョン・セラピー(Conversion Therapy、転向療法)と呼ばれる治療法があります。
これは、異性愛の人、身体的性別と性自認が一致している人を正常とみなして、その他の人を強引に「治す」ことを目的とした行為です。
古い価値観を持つ親が、今もなお世界中で、沢山の子供をこのセラピーに通わせています。
自分の存在を完全に否定されるこの「治療」には、効果があるどころか、多くの体験者が精神を病んだり、中には自殺する人も出ています。
彼女は「こんなのは間違ってる!」と思い、この曲を書きました。
英語の解説動画
彼女がサビで繰り返し歌う“I don’t need a cure for me”(私に治療なんかいらない)は、そんな意味を背景に持った歌詞です。
そして多くの人が何気なく踊っているであろうダンスの一部、首を横に振るパートは、「私達LGBTは、これが本当の自分。だから『治す』必要なんかない!やめて!」の、NO!の、意思表示です。
これは実は、社会の暴力に抵抗するポーズなのです。
そして前述の発言の通り、この曲を通して彼女は、マイノリティ、それからこの社会で生きづらさを抱えている全ての人達に向けて、
「ありのままの自分でいていいの。あなたがあなたでいることは、何も間違ってないんだから」
と、語りかけているのです。
そんな強烈な社会的メッセージを放つ曲なので、彼女のファンには、正直なところ、あのTikTokのブームを喜べなかった人が多いです。
TikTokのブームには問題があった?
TikTokでは、この曲のMVの彼女を真似たダンスが大ブームとなり、沢山の人が、 #ペンギンダンス というハッシュタグと共に、自身の踊った動画をあげていました。
(なお、ペンギンダンスは彼女が命名したものではありません)
フォロワー数が圧倒的に多い、所謂インフルエンサーの方達もおり、彼らが拡散力に拍車をかけたのではと思います。
現在の #ペンギンダンス の動画再生数
使用されているハッシュタグの数々
しかし、MVの踊りだけが「面白いダンス」として、一人歩き(というか大暴走)させられていく様には、曲本来の持つメッセージがかき消されていくような危うさを感じました。
こういった出来事は、過去にも数多くありました。
有名な例えをあげると、海外セレブのキム・カーダシアンが発表した下着のブランド、Kimono。
彼女は私達の伝統衣装である着物(Kimono)を見て、「服の名前に自分の名前入ってんじゃん!これブランド名に使おう!」と思い、この言葉を安直に切り抜きました。
最終的には京都市長までもが抗議する事態となり、彼女は使用を断念しましたが、もしもそのまま使われていたら。沢山の人の手に彼女のブランドの商品が渡っていったら。
今頃Kimonoという言葉は「下着」という新しいイメージで、世界に浸透していたかもしれません。
社会批判ソング、そしてマイノリティの人達へ向けた応援ソングであるこのCure For MeのMVを見て、「このダンス面白いじゃん!」と思って、ダンスだけを切り抜き、「ペンギンダンス」と新しく名付けて広める。
インフルエンサー達によってこの曲が、AURORAを知らないような人々の中にも、「ペンギンダンスの曲」として浸透していく。
このブームは、Kimonoと同様に、一種の暴力性を孕んでいるように思えました。
なぜ私がKimonoの例を挙げたかというと、インフルエンサーの方達はこの例の中のキム・カーダシアンであり、それと対照的に彼女のファンの多くは、曲の歌詞が向けられているように、社会的に大きな声を持たないマイノリティだからです。
AURORAは、この曲Cure For Meの他にも、社会的なメッセージを持つ曲を沢山書いていて、マイノリティに向けて「私があなた達のために自由な国を作ったから、一緒に住みましょう」と語りかける曲(Queendom)も出しています。
彼女のファンは、今や彼女を中心として、一つのコミュニティを形成しています。
私達が着物という文化を危うく潰されかけたように、彼女のファンの人達は、このTikTokのブームによって、自らが拠り所にしている、コミュニティの一部である、この曲Cure For Meを失いかけていました。
その事実を一人でも真剣に受け止めてくれる方がいたら、私は嬉しいです。
まとめ
というわけで私は、この曲が本来持つ意味を、TikTokのブームを楽しんでいた少しでも多くの人達に知ってもらえたらという思いで、この文章を書きました。
人が作り上げたものの表面(名前や見た目)だけを貰うのはとても簡単だし、誰にでもできます。だからこそ、これだけ凄まじい勢いでバズったのだと思います。
でも一歩立ち止まって、その中身(それの持つ意味や本質)まで注意を向けてみて欲しいです。
そして実はそれはとても大切に作られていて、それを貰って大切にしている人達がいるということに、気づいてもらえたら嬉しいです。
洋楽には他にも素敵なメッセージを持つ曲が沢山あります。ぜひ皆さんの身近にある曲から、その歌詞に注目してみてください。
そんな彼女は、「この曲はいつも書く曲と違って、とても楽しい曲にしたの!」と言っています。
ダンスのレクチャー動画まで出しています。
この曲の持つ意味を受け取ってくれたのなら、私達ファンと一緒に踊りましょう!
結論として私は、
・Cure For Meの歌詞に込められた想いを知ってほしい!
・TikTokのブームを喜べなかったファンの人へ向けて、その気持ちは間違ってないよ!
…と言いたいです。以上!
素敵なインタビュー記事
AURORAドールを作った話