コロナが猛威を振るいだした2020年の春。
世界中が外出自粛中の時、ボーカルのConorが自室から弾き語りの動画をあげていた。
(だいぶ投稿を消してしまったみたいだけど、リールに結構残ってる)
Conorが度々口にしていた地元Southend-on-Seaへの愛。窓の外からの景色、たまに映り込む隣の建物。
あまりにも暇すぎて、それらをヒントにGoogle mapをぐるぐる回していたら、彼の自宅を特定してしまった。
これはもう聖地巡礼をするしかない。
自宅訪問は置いといても、彼らの地元愛は広く知られていたから、彼らの音楽を産み出した町を歩いてみたかった。
イギリス到着の翌朝
朝ごはんに飛行機で出されたポテトパイを食べた。
観光ついでに、この後行くライブとゴッホ美術館のチケットを印刷したかったから、家主のマダムにプリントができる店を聞いた。そしたらなんと、家のプリンターを使わせてくれた。
ここに友達でも住んでるの?と聞かれて、まさか聖地巡礼旅だなんて言えないし、ただNoとだけ答えた。
プリンターをいじっていたら、彼女が私の着ていたBroken Machine Tourのジャケットを見て、
「あら、Nothing But Thievesじゃない。彼らここ出身なのよ」
!!!
「息子が彼らの出身校に通ってるわよ」
!!!!!!
"Yeahhh... I love them! That's why I visited here...!!!"
オタクは英語でも早口になるらしかった。
今日ライブでもあるの?って聞かれて、ただ彼らの町を歩いてみたかったと言ったら笑われた。
出発。
やっぱり初めに行ったのはこの場所。
Conorの住んでいたアパート
彼はもうここには住んでません。
1年ほど前に引っ越してた。住んでる時に来たかったけど、もう去っていて安心したかも。まだ住んでたらこんな風に載せないし。
もし彼がここにいる可能性があったりなんかしたら、それこそもう、観光そっちのけで何時間も前に座り込んでそうだ。
少し進むと、すぐにあの風景が見えてきた。
これが、Conorが好きだった景色。
Nothing But Thievesの音楽を初めて聴いた時、これが自分の人生で出会える最高の音楽だと確信した。
その確信は揺らぐことがなく5年が経った。
(無料の動画投稿サイトがやっぱり駄目だったのでそのうちYoutubeにあげる…)
昨夜到着した駅、Leigh-on-Sea
彼がこの町を出るときにいつも使ってたと思うと、もうそれだけでそわそわする。
てかコナー君んち、Leigh-on-Seaで一番背が高い建物じゃん… この後、どこに行ってもどこからでも良く見えた。
この町で一番見晴らしのいい場所だ。何階に住んでいたかまでは分からないけど、多分最上階の近く。
ググったら家賃が出てきた。推しの財力を知ってしまった。
彼が前に訪れてた城の跡地へ向かった。
地図上で見ていて、城への道がどうなってるのかよく分からなかった。
けど。
なるほど。こうなってるわけね…
誰もいなかった。
一人だけ違う世界に飛ばされたかと思った。それくらい田舎だった。
Hadleigh Castle
うん。完全なる廃墟だ… 廃墟が似合う町だなんて。
戻ってから、電車でSouthend-on-Seaの中心街、Southend Centralへ向かった。
Southend Central
近くに大学があって学生が沢山歩いていた。私もこんな場所で大学生活を送りたかったなあとか思った。
髪がカラフルな人が沢山いた。
日本だと髪がカラフルな人は大抵メイクや服装も気合が入ってるけど、海外だと凄くラフな格好の人が、それでいて髪が青、赤、緑だったり。
彼彼女達にとってヘアカラーはちょっとしたお洒落程度の感覚なのかな。それが私は凄く好きだった。
彼らがイベントを開いたりしてたHMV
サインとかあったらいいなと思ったけど別にそういうものは無かった。
1stのvinyl、タワレコで買うの悩んでたらもう買えなくなってたんだよね… 一瞬ここで買おうか悩んだけど、持ち帰るのが不安すぎるしやめた。
Southend Centralには、世界で一番長い桟橋がある。
行く予定だったけど、ここは流石のイギリス。遠くはかすみ、空と海の境もわからないくらい天気はどんよりしていて、私は1000円払って何も無い空間を見つめに行くのか?と冷静になってやめた。
ぶらぶらとLeigh-on-Seaまで戻った
気まぐれに雨が降り始めた。
ひたすらNothing But Thievesの1st EPを聴きながら歩いていた。彼らの曲にこの情景を染み込ませる為に。
だって、音楽って記憶力が凄いでしょ。
聴いていた時の情景を覚えている。ありありと思い起こさせる。匂いだって覚えている。
Marianas Trenchの4thアルバムを聴く度に、7年前にいたミシガン州立大学のキャンパスの、澄んだ空気に包まれる。
だからこそ、この場所には独りで来たかった。
Conorの通ってた高校
話によれば、Nothing But Thievesの一番最初のライブが行われたのがこの高校だった。
多分Joeも同じ高校。DomとPhilは隣の高校だったと思う 。
藤の木が生えている家が沢山あって、とても綺麗だった。
この町は彼らが子供時代を過ごした場所。
多分Conorのお姉さんやお母さんはまだこの近くに住んでると思う。
左のおばあさん、首にタトゥー入ってたよ…!
途中でスーパーに寄ったら、Yorkshire Teaが凄まじい値段で売ってて目玉が飛び出た。
私、恋人が飲みたいっていうから探して、横浜のデパートで右のサイズのやつ、1000円位で買ったのに…
スーツケースの中でペシャンコになることは必至だったから、泣く泣く置いてきた。
午後3時半。
クリームティーの時間にしよう。
Sara's Tea Garden
ねえ、イギリスのスコーンって、なんでこんなにめちゃくちゃ美味しいの。
初めて食べた時びっくりした。そもそもスコーンを食べて感動するなんてことがあると思わなかったから。
クロテッドクリームがまたとても美味しくて。 モリモリ盛られてても全部食べちゃうんだよなあ。
よく見たらジャムがここEssex産でなんだか嬉しい気持ちになった。
潟の近くへ行ってみた
船が沢山捨てられていた。酷く朽ちていた。
この辺りの土地は全部潟?なのか。
ひょっとして少し歩いて行けるのかなと思ったけど、絶対ずぼって足を取られそうだし、残りの旅をぐちゃぐちゃのブーツで過ごすのはごめんだと思ってやめた。
Graveyard of Shipwreck
「難破船の墓場」というタイトルと共に、この町の写真が載せられているのをネットで見た時、とっさにNBTの代表曲Graveyard Whistlingを思い出した。
"'Cos if you don't believe
It can't hurt you
And when you let it leave
It can't hurt you"
「信じなければ傷つくことはない
手放してしまえば傷つくことはない」
これをタトゥーに入れようかと悩んでるけど、 これじゃあまりにも悲しすぎるかな。
NBTの曲が好きすぎて、彼らの音楽を体内に取り込みたくて、ある日ふと、歌詞のタトゥーを入れるのが、現実的で一番「同化」に近いかもしれないと気づいた。
それからずっと、何の歌詞を入れようか、何のフォントにしようか考えてる。かれこれ2年以上。もうこの性格だから死ぬまで悩んでるかもしれない。
もう一つ候補の歌詞があって、それも悲しいんだよなあ。
悲しい言葉を入れて、幸せな時にすら呪いのように縛られるのは怖い。でもだったら、明るい言葉を入れたらどんな時でも元気になれるんだろうか?いや、私に限ってはそんなことも絶対ない。
この土地はちょうど、ロンドンを通ってきたテムズ川が、海へと変わる場所。
この船達は、ただ停泊しているのかと思ったけど、捨てられてるの?それともモニュメントなの?ちゃんと動くの?
何度も海まで降りたり丘に登ったりした。
この景色をただ眺めよと言わんばかりに、沢山のベンチがあった。
雨が止んだと思ったら、雲の切れ間から日が差してた。この後またすぐ降ってきた。
本当に気まぐれな、安心するくらいイギリスの天気だった。
ここがNothing But Thievesの生まれた町。
ちょっと憂鬱で、寂れていて、それでいて美しくて。彼らの音楽にぴったりだと思った。
素敵な町だった。
いつまでも歩き回っていたかった。
この町に戻ることはもう人生で二度とないと思う。それは来る前から分かってたけど、はじめましてとさよならを一日でしなければならないのは寂しかった。
Nothing But Thievesの曲達がこの景色を記憶しておいてくれることを祈った。
この日の総歩数は3万歩を超えたけれど、日本に帰ってきたら時差の関係で分割されて2万まで減ってて泣いた。
18時半ごろに家に戻った
猫がお出迎え。
Airbnbを利用するのは今回が2度目だけど、 結構ワクワクするなと思う。現地の日常の鱗片を味わえる気がして。
こんな家に住んでみたかったな。
食事はキッチンでしてほしいと書いてあったから、恐る恐るキッチンに来た。
でも家主達は気を利かせて外出してるのか、気配がまるで無かった。
完全に「人ん家」って感じだった。個人宅だからあんまり写真載せられないけど。
これとか。
子供達の身長を記録してるの。微笑ましい。
それから至る所にLeigh-on-Seaに関係するアートが飾ってあって、この町を愛している気持ちが伝わってきて良かった。
もしかしてと思って窓から身を乗り出したら、自分の部屋からもConorの家が見えた。
右端にかすかに見えるやつ。
推しの家が見える家に滞在している……
初夏のイギリスの夜は、とてもゆっくりと訪れる。
昨日までが慌ただしくて混乱に満ちていた分、今日はのんびりした時間を過ごせてよかった。
明日はロンドンに戻ります。
③に続く
ここで産まれたEPMan-Made Sunshine
Nothing But Thievesへの愛を語った文