Nothing But Thievesのライブを韓国に見に行った。
Dead Club Cityに招待された。
彼らは私が世界で一番好きな音楽で、でも最後に見たのは2018年のレディングフェスの最前列で。もうゆうに5年経っている。
日本に来ない
8月に韓国公演が発表されて、じゃあアジアツアーをしてくれるんじゃないかと期待したよね。
最近はsnsをあまり見てないから、代わりにTwitterの検索でNothing But Thieves lang:ja、ナッシング・バット・シーヴスってエゴサしてたね。
8月からほぼ毎日ずっと。流石に自分が不憫だったね。
タイのフォロワーさんと一緒に「来て~」ってやってたら、タイ公演は追加されたね。
本当に来なさそうだなと、それならもう韓国に行ってしまおうかと考えた。
来年の2月にヨーロッパでアルバムツアーが行われる。それを最後にアルバムツアーは終了!ってされたら、心が砕けちゃうなと思った。
やっぱり韓国公演に行こうと決めて、チケットを購入しようとした。でも途中からサイトが先に進めなくて、直後にSold outしたと分かった。
あー終わったなと思っていたら、追加公演のアナウンスがあった。
不幸中の幸いって、こういうことだろうと思う。
追加公演が決まったことで、そのチケットの販売開始時刻、その熾烈な争いのスタート地点に、韓国のファンと共に立てることになったのだから。
そこから購入やら準備やら会場に着くまでやらの話を始めたら、一向にライブにたどり着かないので省略する。
結果的に、それなりに良い整番を手に入れられたことだけは報告しておく。
国内盤が出ない
今年の6月30日に、4thアルバム「Dead Club City」がリリースされた。
今までのアルバムのように、また有名な音楽ライター粉川しのさんの、情熱的なライナーノーツが読めると思っていたのに、国内盤が出なかった。だから対訳もない。
もう悔しくてたまらない。
初めての完全なコンセプトアルバムで、これまた彼らのキャリアで初めて、全英チャート1位の快挙を成し遂げたというのに。
彼らは別に日本で無名のバンドじゃない。
デビュー前からサマソニに出演してたし、1st、2ndと、順当にアルバムツアーを日本で行ってきた。3rdはコロナ禍の2020年にリリースされたから仕方がないとしても、なぜここにきて国内盤すら出なくなったのか。
ソニーミュージックが中途半端にプロモーションして、2曲だけ日本語訳を公開していた。
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— ソニーミュージック洋楽 🌞 (@INTSonyMusicJP) 2023年7月11日
日本語字幕追加🇯🇵#ナッシング・バット・シーヴス
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🥇全英アルバム・チャート1位を獲得したアルバム『Dead Club City』より
「Welcome to the DCC」
「Overcome」
の2曲で日本語字幕が選択可能に!
楽曲の世界観をより深く理解し"デッド・クラブ・シティ"で繰り広げられる物語に没入しよう🔥
でも結局、“デッド・クラブ・シティで繰り広げられる物語”とは何だったのか。
何がどうコンセプチュアルなアルバムだったのか。
これから先情報を追加する気はあるのか。
全く期待できない。
アルバムDead Club Cityについて
そこで、ライブのレポートを書くにあたって、この4thアルバムDead Club Cityとは一体どんな作品だったのか、個人的な解釈を書こうと思う。
なぜなら私の見たライブは、このアルバムの世界観をそのまま持ってきた、まさにDead Club Cityで行われた、完璧にコンセプトが練られた最高のショーだったから。
3月15日に、1stシングルWelcome To The DCCがリリースされた。
大きく動揺した。
彼らが今まで歌ってきた、ネガティブな心情を吐き出したり、社会批判をするような曲と、完全に相反する歌詞だったから。
“Welcome To The DCC, Dead Club City”
(デッド・クラブ・シティへようこそ)
“All the heaven, all the time”
(ここはいつだって全てが天国だ)
“Live your perfect life”
(完璧な人生を送ろう)
彼らもついに薄っぺらい事しか歌わないバンドになってしまったのかと危惧した。
しかし、そこで終わらないのが、彼らの作る音楽だ。
このコンセプトアルバムは、架空の会員制の街、Dead Club Cityを比喩として、現実世界に存在する特権階級や不平等、人間の貪欲さを批判し、嘲る作品だった。
アルバムの概要は全く触れられていないわけではなく、Rolling Stoneで、Conorが日本人からのインタビューに応じている。
インタビュアーが、“日本盤がリリースされたら、歌詞の対訳を読みながら、改めて聴いてみたいと思います”とすら言っている。(だからこそ期待をして、失望しているのだけど)
今作品には様々な人物が登場する。
・Dead Club Cityに憧れて、街に向かおうとするカップル。(Overcome)
・街で幸せなフリをするものの、持ち前のネガティブな思考が拭えない人物。(Keeping You Around)
・街の居心地が悪くて出ていこうとする人物。(City Haunts)
・地位を得る為なら、何でもしてやると意気込む人物、Zzzero。(Do You Love Me Yet?)
・街に入れてもらえない不平等さを罵る人物。(Members Only)
・街を出て、自らの足で歩いていこうと決断する人物。(Talking To Myself)
彼らは作品を通してこう問う。
「富を得ることは素晴らしいことなのか」
「何でも手に入れれば幸せになれるのか」
「そしてそれは本当に欲しいものなのか」
そして最後の曲、Pop The Balloonで、彼らは「目を覚ませ。Dead Club Cityを破壊しろ!」と歌う。
アルバムのタイトルを冠するDead Club Cityは、最終的に、真っ向から否定され、破壊されて、物語は終わるのだった。
Dead Club Cityは、1stシングルで皆を欺いて、最後にどんでん返しを用意するという、とても痛快なコンセプトアルバムだった。
会場についた
ソウルは寒かった。
最低気温が-5度と予報されるその日は、なんとチラチラと雪が舞っていた。
会場には4時頃についた。意外なことにほとんど人がいなかった。でもそうか、今日は平日だもんな。
ロッカーはどんどん埋まってしまうとのことで、先に一旦取っておいて、(寒すぎるので)直前にまた開けてコート類を入れることにした。料金はたったの120円程度だったし。
ロッカーが上手く閉まらなくてガチャガチャやっていたら、調子が悪いやつだったみたいで、最終的にキーのストラップを破壊してしまった。
近くに女の子がいたので、「これってどうやって使うんですか」と英語で聞いた。
私が外国人と知ったからか、あんまり覚えていないけれど、確か彼女の口から日本語が漏れた気がして、「え?日本人ですか!?」とびっくりして、そこから私のマシンガントーク。
「これなんか閉まらなくて壊しちゃったんですけどどうしようw 他のはちゃんと使えるのかな、でもお金無駄にしちゃったなー最悪」
彼女を見たらカチコチに固まっていた。
彼女は日本人じゃなくて韓国人だった。
簡単な日本語で少し言葉を交わして、せっかくなので、ライブのために描いたイラストを彼女にプレゼントした。
彼女は洋楽の他に日本のバンド等が好きみたいで、独学で日本語を勉強していた。
そして今年のサマソニで初めて日本に来て、Blurを見たという。今年が初来日でなんでそんなに喋れるの…
「日本人とこんなに喋るのは初めてです」と彼女は言って、寒いのでコンビニに行きましょうかと誘い、イラストのお礼に暖かい飲み物とホッカイロ(韓国ではホットパックと言うらしい)を奢ってくれた。
韓国語はアニョハセヨ程度しか知らない舐め腐った奴に、日本語でこんなにコミュニケーションをとってくれるなんて、なんて良い人なんだろう…
時間が経つにつれて、段々と人が増えてきた。
6時に外国人用の窓口で、パスポートと購入明細を見せてチケットを交換してもらった。
開場の30分前、6時半から整番順に整列が始まった。
彼女は2桁の良い番号だったから、一旦その場で別れた。
欧米では、ライブは先着順で入場するので、前を取りたければ何時間も前に会場に行かなくてはならない。
ありがたいことにここ韓国では、日本と同じようにチケットに整理番号があるので、焦る必要はなく、それに従って並べた。
ただ日本と違う点として、7時に開場したらその出来た列で入場する為、それ以降は良い番号を持っていたとしても完全に無効になってしまうのが恐ろしい。
箱は日本のZEPPと同じくらいだと言われていて、違いと言えば、サマソニのように左右が柵で別れている。
左右ともに横に30人程並べるはずだったけど、やはり皆真ん中を狙いたいわけで、126番だった私は前から7人目位の場所に立った。
でも約2500人が入る箱で、外国人としてこの位置が取れたことには、満足しなければ罰が当たるだろうと思う。
ラジオが流れた
先のアメリカ、イギリスのツアーでは、発表されたタイムテーブルの、ライブの開演時刻の30分前に、Dead Club Radioというタイトルがあった。一体何なんだろうと気になっていた。
と、ここでも、30分程前にいきなり、“This is Dead Club Radio!”と言う音声がかかった。
そこから音楽が流れていく。いわゆるSEと同じようなものだけど、どうやらラジオ番組を再現しているみたいだった。
ところで、アルバムの2曲目のOvercomeでは、登場人物たちがラジオの音楽を流しながら、バンに乗ってDead Club Cityに向かう。
“Turn the engine on
Our song blaring out a Dead radio”
(エンジンをつけて
デッド・ラジオから鳴り響く僕らの歌)
このDead radioを、ソニーミュージックの公式は「壊れたラジオ」と翻訳していたけれど、NBT公式は頭を大文字で書いているので、私はこれはDead Club Cityのラジオなんじゃないかなと思う。
ジャケ画にもラジオが描かれている。
そうか。私達は今、Dead Club Cityに向かっているんだ。
そこまで世界観を作りこんでくる、彼らの熱意に驚く。
Do You Love Me Yet?の歌詞に出てくるバンド、Electric Light OrchestraのMr. Blue Skyも流れた。
曲と曲の合間に、女性が「Dead Club Cityご用達のグッズを手に入れましょう」と物販の宣伝をし始めるなど、やはりラジオ番組の体を装うことに抜かりない。
と、そこで、ゲストとしてZzzeroという人物が出てきた。Do You Love Me Yet?に登場する人物だ。
何でも欲しがる貪欲な彼は、NBTのNeon Brotherをリクエストした。
そのワードを聞き取って、途端に沸き立つオーディエンス。
Neon Brotherは、彼らがライブで演奏しない曲の中でも、とりわけファンからやってくれという要望が高い曲で、もはや“Play Neon Brother”というフレーズは、一種のネタとして、ファンの中でミーム化している。
そこでラジオパーソナリティは「嫌だね」と一蹴。
ファンをおちょくることが大好きな、彼らならではのいたずらに笑ってしまった。
さあ、もうそろそろ開演時間。
ラジオのパーソナリティはこう言う。
「Dead Club Cityの皆さん」
「今夜は特別なゲストをお呼びしています。
Nothing But Thievesです!!!」
靄がかったステージに、メンバーのシルエットが次々と浮かんで、小柄な人物が真ん中のマイクの前に立った。
「アンニョン!!!」
ライブが始まった
一曲目はもう、これしか選択肢が無い。
Welcome To The DCC
「デッド・クラブ・シティへようこそ!」
一言目からオーディエンスは大声で歌う。
Is Everybody Going Crazy?
興奮冷めやらぬままに、今度は3rdアルバムMoral Panicの1stシングルを披露。
彼らはMoral Panicのツアーをアジアでやらなかったから、3rdアルバムの曲を生で聴くのも、勿論これが初めてだった。
「みんな狂っていく 孤独なのは僕だけじゃないだろう? 段々自分を見失っていくんだ」
コロナが蔓延しだした2020年の春にリリースされたこの曲を、何百回聴いて、その歌詞がいかに現実を投影していることに驚いたことか。
いきなり切り替わるConorのファルセットが、五臓六腑に染み渡る…
Real Love Song
ラブソングが少ないと言われて書いたという、ひねくれたラブソング。
“This is a love song” “So what?”
(これはラブソング)(だから?)
“Did it slide into your heart?” “I guess not”
(君の心に届いたかな)(無いね)
そっか、この掛け合いはライブで最高になるんだ…
Conorはもう満足げになって、最後はそのままオーディエンスに全部歌わせた。
コナー君、左手でマイクを掴むから顔あんま見えないんだよな…
でも私は一心不乱にギターをかき鳴らすJoeが好きなので、過去の3回のライブもJoe側で見ていた。
次はDomの方にも行きたいので、来日の際は是非2公演お願いします。
Sorry
2ndアルバムBroken Machineより。
「多分僕は欠陥品か馬鹿なんだ
ごめん ごめんよ 僕がやってしまったことを」
懐かしいこの曲を、再び彼と歌えることが嬉しかった。
でも古い曲は全然動画を撮らなかったから、もう記憶からぶっ飛んでる…
Do You Love Me Yet?
サクサクと軽快に刻むリフが最高で、リリースされたアルバムを聴いて一番初めに好きになった曲。サビに合わせて踊るのがすごく楽しかった。
そしてここでもConorは、途中からマイクをこちらに向ける。
“Pick up the award for best rock act, apart from that, WHAT?”
(ベストロックアクト賞を掴むんだ)
オーディエンスも分かってたと言わんばかりに、
“And that and that and that!!!”
(アレとアレとアレに加えて)
もはやこの掛け合いを狙って書いたのかもしれないと思うほど。
韓国のファンも、サビ以外はあまり歌わない点では、英語への理解度は日本人と同じくらいかなと思った。
でもどこで歌うべきか、盛り上げるべきか、ちゃんと心得ている感じがした。例え新譜であろうと、古い曲であろうと。まあ要するにノリがよかった。
少し寂しくて、でもただただ素敵なライブで、だんだん満たされてきた。
Conorが本当に、本当に楽しそうだった。
曲間でずっと踊っていた。
オーディエンスも熱狂的過ぎて、段々とその向こう岸にいるConorが霞んで見えてきた。
私は本当に彼らのライブを見ているのか?
それともこれはただの夢なのか…?
“You know, we love Korea!”とConorは言った。
私がこのライブに行く前から抱いていた一種の寂しさを後で咀嚼してみたら、やっぱり韓国だからなのだろうなと思った。
レディングフェスは大丈夫で、girl in redのLondonとも違って、留学してた時に見た、Marianas TrenchのNew Yorkでもない。
例えば、OsakaやNagoyaと聞いて寂しさを感じないように。
韓国だから。
私が大好きな彼らが大好きな「国」で、こんなにも近くにあるのに、私は何をどうやってもKoreaではないから。
でもこの夜だけ、私はKoreaの一部になれていたでしょうか。
なる事を許されていたでしょうか。
そう願った。
Unperson
3rdアルバムの一曲目。彼らのアルバムはいつも、激しい曲から勢いよく始まるから最高だ。
2ndの始まりの曲I Was Just a Kidの代わりに選ばれたのだろうこの曲も、究極にかっこよかった。
Conorは最近ロックは飽きたなんて口にしていたけれど、ライブでは全然やる気だし、どんなサウンドも全部僕たちだと言っているようなものだと思った。
5年前、初めて彼らのライブを見た時、一生耳元で鳴らし続けて欲しいと思うくらい愛おしい重低音だと思った。
それとConorの激しくて、優しくて、切なくて、時に狂わしくて。胸に突き刺さるこの歌声は、私の中で永遠に反響し続ける。この2つがあれば私は生きていける。
そういえば、かなり3rdからもやってくれたな。最近のセトリをあまり見てないから、それがアジアを意識してなのか、ずっとそうなのかは分からないけれど。
Lover Please Stay
10年前の古い曲をやるよ、とConorは言った。
ああ、あれだ。韓国公演ならやるだろうと思っていた。2018年のジャパンツアーのセトリにそのまま追加して、韓国だけで演奏した事を根に持っていたので。
でも前日はやらなかったみたいなので、聴けてラッキーだったな。
「僕から何でも奪っていってくれて構わない。でもどうか、僕のそばにいて欲しい」
Conorの優しい歌声に合わせて、観客のスマホのライトが揺れていた。
Trip Switch
長いこと分からなかった。なんで彼らが1stアルバムから執拗にこの曲だけを選んで演奏するのか。
その日、やっとわかった。これもライブでやると最高なんだ。
この日はJoeの誕生日だった。
ケーキはファンが用意したのかな。
バンドが韓国公演をする時、おそらく楽屋でのケーキの写真をインスタに載せることが多い。ファンのこういった活動を会場が容認してくれるのは羨ましいな。
蝋燭の火を吹き消したら、そのまま顔面ケーキ… とはいかず、拍手で終わるという、ロックバンドには珍しい、とても平和なバースデーサプライズでよかった。
Impossible
私がこのライブで一番聴きたかった曲だった。
2020年秋にリリースされた直後に聴いて、この歌詞はまるで、私から彼らの音楽へ向けたものじゃないかと思ったから。
「君の中に沈み込んで、二度と浮き上がりたくない」
遂に生で聴くことができて幸せだった。
周りのコーラスも切なくて泣きそうだった。
ただ、これだけはどうしても動画を残したかった曲だったから、私は小声で歌った。
今度は大声で一緒に歌えるよう、またライブに行かせてください。
Pop The Balloon
Dead Club Cityを破壊する、アルバム最後の曲を、やはり彼らは最後に用意してきた。
“Kill the Dead Club City!!!”
街を破壊しつくして、彼らはステージの奥に消えた。
すぐに“アンコール”の掛け声が始まる。韓国でもアンコールって言葉使うんだ… と思った。でも私達は洋楽ではアンコールって言わないよな。バンドに理解されてるのかな。
その掛け声は途中から“NBT!”に代わり、そう長くは経たないうちに、彼らはステージに戻ってきた。
アンコールにやる曲と言えば、2017年の2ndアルバムのツアーから彼らのアンセムとなった、Amsterdam以外ありえない。
それにプラスして、Overcomeが、代わって新たなラストソングになった。
Joeが今までで一番好きなギターソロだと言っていたなあ。
「コンセプトアルバムだけど、それに囚われず、色んな風に曲を解釈してくれていいんだよ」とConorが言っていたように、「その痛みをそれ以上のものに再定義してみたら、きっとまた乗り越えていけるはずさ」という歌詞は、沢山の苦しみを経験してきた彼らだからこそ書けたポジティブな歌詞で、私達を前へと進ませてくれる気がする。
数日前にSpotifyのまとめがリリースされたけど、この曲は私が今年一番聴いた曲だった。
さあ、Dead Club Cityは崩された。
明るく爽やかな音楽と共に、ライブは終わった。
出待ち
この会場は出口が一つしかないので、よく出待ちができることで有名だった。
余韻は一旦脇に置いといて、ロッカーから急いで掻き出した荷物をトートバッグに突っ込み、横に並んだ出待ちの柵に飛びついた。
2列目が取れた。ので、とりあえずイラストくらいは渡せそう。
ライブ前に知り合った子と連絡を取ろうとしたら、「手を挙げて居場所を教えてほしい」「渡したいものがある」と言われた。
渡したいものはもちろんメンバーへの物だと思ったし、せっかく2列目が取れたので、じゃあこっちおいで~という気持ちで手を挙げたら、後ろから来た彼女は私にDomのギターピックを手渡して、私へのプレゼントだと言った。
意味が分からない。
昨日も最前列でピックを手に入れたからだと言う。
でもだからって。
ここに来るまではもう、ちゃんと辿り着けるか、ちゃんと彼らを見れるか、ちゃんと楽しめるか否かしか考えていなかったから、ライブのこの日に、この場所で新しい友達が出来て、その子からこんなプレゼントを貰うだなんて、想像すらしていなかった。
彼女は出待ちはしないで帰ると言った。
私は「また会おう!」と言うので精一杯だった。
《セットリスト》
待機中、持っている子に写真を撮らせてもらった。
お礼に周囲の子達にイラストをプレゼントした。
みんな私が日本人だとわかると、簡単な日本語を喋ってくれて、びっくりした。
ただ、前日に出待ちに成功した人達が写真を上げたため、皆期待をして、人数が何倍にも膨れ上がっていたみたいだった。結局メンバーは車に乗って通り過ぎてしまった。
私は一度機会を得たら満足してしまうたちなので、ConorやJoeとは2018年に写真を撮ったことがあったし、あまり会うことには執着していなかったけど、とにかくここまで来たからには、日本のファンの為にも、「日本に来てほしい」と伝えたかった。それが出来なかったのが心残りだった。
時刻は10時半過ぎ。
気温は-5度になっていた。
なんかもう寒いというか、痛い。
出待ちしていた子達はタクシーで帰ると言って、その場で別れた。というか、最後まで日本語で喋ってくれて、本当に何なんだこの人達は。
私が韓国の人々に対して抱いていたイメージはことごとく覆されていった。
ライブ後は、サムギョプサルで一人打ち上げ~なんて呑気に考えていたものの、調べていたお一人様OKの店はもう閉店時刻を過ぎていて、電車を待ちながら24時間営業のお店を適当に見繕って、よろよろと向かった。
5年間生きがいにしていた音楽の爆弾を全身に浴びたので、ボロボロだった。
最高だった。
これに尽きた。
メニューは二人前しか選べなかった。なんか説明されてたけど分かんなかった。
全てが1キロ先の他人の会話並みにどうでもよかった。
目の前で勢いよく焼けていく肉を慌てて皿に積み上げて、サムギョプサルは野菜で肉を包んで… とかいう正式な食べ方も、なんかもう全部一緒に食べたら実質同じじゃんと思って、適当に口に放り込んだ。韓国の皆様、ごめんなさい。
辛い物を食べたら暖かくなるかと思ってキムチも口に突っ込んだけど、寒さの痛いに辛さの痛いがプラスされただけだった。
午前1時くらいにホテルに戻った。
今日を終わらせたくなくて、ぼーっと動画を眺めていたら、朝の5時とかになった。
翌日
昼近くに目覚めたら、出待ちの時に知り合った子からDMが来ていた。
開いたら、Conorが私の絵を持っている動画があった。
は???
彼女は今朝空港でメンバーに会い、彼らに日本に行ってくれるよう伝えてくれたようだった。
そしてConorに私のイラストを渡してくれた。
なんで昨日会ったばかりの人間にそこまでしてくれるのか、全く理解できなかった。
とにかく泣いた。
なんでみんな、こんなに親切なんだろう。
私の兄は昔から(それこそインターネットが普及しだした彼が高校生ぐらいの時から)いわゆるネトウヨというやつで、嫌韓で、ヘイト発言をまき散らしていた人物だった。
だから自然と、なんとなく、私達も韓国人に嫌われているのではないかと思っていた。
ニュースで流れてくる両国の話は芳しくないものばかりだったし。
これも、今回の渡韓をためらっていた理由の一つだった。疎外感を味わうのが怖かった。
K POPみたいな自国のアーティストが好きで見に来るならともかく、全然関係ないイギリスのアーティストだし。
独りぼっちでライブを見て、独りで凍えながら帰ったら、寂しさでもう、これが人生で最後のライブになるもしれないと思っていた。
でも違った。
こんなにも素敵な出会いがあるなんて思っていなかった。
韓国の人へと抱いていたわだかまりが、跡形もなく消え去っていった。それがすごく救いになった。
意外なことに、その後の数日間の滞在中、普段の海外旅行と違って、現実に戻りたくない、日本に帰りたくないとは思わなかった。自分でもよく分からないけれど。
ただの現実逃避と違って、その逃避先に、私を受け入れてくれた人達がいたからかもしれない。
これから先、たとえ彼らが来日しなくても、韓国に見に行けばいいかなと思ったら、なんだか気が楽になった。
知り合った子達も、日本が大好きで、NBTが日本に来たら見に行きたいと言ってくれた。きっと再び会うことができるだろうと思ってる。
とりあえず、次に彼らのライブを見れる時まで、Conorが、見ず知らずの日本人に向けて、「イラストを受けとったよ」と伝えるために、カメラ側にそれを見せた、その事実と共に生き延びようと思う。
イラストにプラスして、このバナーも作って持って行っていた。
Conorのサイドプロジェクト、Man-Made Sunshineが本当に本当に大好きだったので。
チキンすぎて人の視界の邪魔になるのが怖くて、一瞬しか掲げられなかった。
距離的には見えただろうけど、彼はMCで喋っていたから、気付いたかどうかは分からない。
本当は来日公演で、最前列で見せたかったものだったから、希望を捨てずに取っておく。
10000字を超えた…
貴重な時間をこれを読むのに使ってくれてありがとうございます。
Conorのサイドプロジェクト
Conorの自宅訪問記
2ndアルバムBroken Machineについて書いた文